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俳優本人たちが語る「ワルの醍醐味」~香川照之、吹越満、新井浩文... [俳優本人たちが語る「ワルの醍醐味」]

俳優本人たちが語る「ワルの醍醐味」
~香川照之、吹越満、新井浩文...

香川照之6.GIF

影が濃いほど、光は輝く。
主演俳優で見るドラマを選ぶ時代は
終わった。
人間には善と悪が混在する。
だからこそ、私たちは悪役に
惹きつけられる。
名優が演じるヒールは人間臭く、
そして魅力的だ。

本来、人間はグレーな存在

「ドラマには主役と相手役がいて、
それらを取り囲む脇役がいる。
そこに悪役も含まれるわけですが、
往々にして一人です。

しかもドラマには『色』があって
例えばそれが『青』だとしたら、
悪役だけは青くない。

つまり『点』の存在なんです。

だから、どうしたって非常に
目立つんですよ」

そう語るのは、数々の作品で悪役を
演じてきた俳優・吹越満(52歳)だ。

作品がヒットするか否かは、
悪役が魅力的かどうかにかかっている。

これがいまのテレビドラマ界の定説。

視聴者も誰がどんな悪役を
演じるのか、期待する時代になった。

ベテラン俳優の寺田農(74歳)は、
悪役の醍醐味をこう言う。

「主役は、今も昔も設定が台本にかなり
書き込まれているから、役者はその枠
からなかなかハミ出せない。

一方で、昔は特にそうですが、
悪役は脚本段階ではあまり
書き込まれていないことが多く、
監督や演出家と相談しながら、
役者は好き勝手にやって
よかったんです。

役に幅があるから演技力も求められる。

やりようがあるから、
悪役のほうが面白いよね」

主役には作り手や世間から求められる
イメージがあるが、悪役はその縛りから
自由なのである。

だが、バランスが難しいと寺田は続ける。

「悪役が立ちすぎてしまっても
ドラマが成立しなくなってしまう。
『半沢直樹』('13年、TBS系)の
ように、善悪の図式とバランスが
拮抗していると、やはり面白い。

出演のシーンは主役が7割だとしたら、
悪役は3割ぐらい。

その少ない出番で、キラリと光る
クセや特徴をはっきりみせなければ
いけない。

そこに自分なりの工夫が必要なんです。

最近では、良い人か悪い人か
わからない役を演じるのが好きだね。

いつも笑っているけど実は巨悪だったと
いう役がいい。

本来、人間ってそう。

限りなく白に近いけど、
黒も混じっているようなグレーな存在。

そういう悪役を意識すると
演技も深くなると思う」

香川照之6.GIF
Photo by GettyImages

今年春クールで高視聴率を獲得した
『小さな巨人』(TBS系)は、
『半沢直樹』のスタッフが再集結し、
いまや悪役の代名詞となった
香川照之(51歳)が再び印象深い
演技を見せた。

「当初は、『半沢』と同じように、
香川さんが悪玉を演じて、
最後にギャフンと言わされる物語だと
誰もが思ったはずです。

しかし、その香川さんのイメージを
逆手にとって、ラストはまったく
違う展開でした。

見事ですし、幅の広い演技ができる
香川さんならではです」
(民放テレビ局員)

憎たらしいと思われたい

続いて『相棒』の監察官役で注目を
集めた神保悟志(54歳)も同意する。

「悪役は魅力があります。
悪役だからといって、
そのすべてが悪なわけではありません。
僕は、なるべくステレオタイプでは
ない悪役を演じたいと思っています。

どうしても悪役は、分かりやすく
なりがちですから。

脚本から想像力を膨らませていき、
人間臭い部分を入れていく
作業が大事です」

神保はドロドロした作風が特徴の
昼のドラマで、悪役に対する
考えが変わったという。

「昼ドラは、物語の傾向として
若い時から歳をとるまでを
一人で演じることが多いんです。

例えば、『新・風のロンド』
('06年)では全62話のすべてに出演し、
19歳~70代を演じました。

この作品内で、僕が演じた野代大介と
いう男はかなりの野心家で目的の
ために手段を選ばない。

ただし、なんの後ろ盾もない彼に
とってそれは、自分のなかでの
正義なんです。

この役が、その後の悪役を演じる
上でのベースとなっているかもしれません。

悪役も、生きるために正義に基づいて
行動しているんだ、ということを
気づかせてくれました」

一方で神保は悪を追及する
刑事役を演じる機会も多い。

「捜査官は犯人の心情を忖度します。
だから、演じていても、両方の心情が
不思議とリンクするんです。

もしかしたら、僕が悪役と捜査官役を
半々でやっているからこそかもしれません。

完全に演じ分けるという意識がない。

視聴者の方が、役柄の悪や正義を
判断してくれればいいなと思うだけ。

悪役にも正義があり、
僕はそれを役として
実行しているんですよ」

北野武監督作品の常連で、
冷徹な悪役に定評のある
俳優・矢島健一(61歳)も
面白みをこう語る。

「日頃は法律や倫理で抑制されている
言動を、表現できることです。
経験したことがないから
難しいということはありません。


たいがいの悪役が考えていることは、
普段から僕らが頭の片隅で
考えていることに通じる
部分があります。

人間が表に出していない毒を、
素直に表現するだけなんです。

主人公が乗り越える山(悪役)は
高ければ高いほどいい。

その起伏がドラマになるわけですから。

僕は肉体的に強そうには見えませんので、
別の部分で強さを表現することを
意識しています。

どうしたら狡猾そうに見えるか、
ただ者じゃない感じが出せるかを
考えていますし、それも楽しい」

前出の吹越満は、
悪役を演じる醍醐味は
「2種類ある」とこう続ける。

「一つは、僕自身が単純にワクワク
するんです。
僕は『良い人に見られたい』と
いう考えをまったく持っていない。
10代の頃から、浮いているような感じ、
皆から触れられないような
感じに憧れていたからかもしれません。

もう一つは、
『この役はこんな風にやるんだろうな』
と思っている作り手や見る方の
イメージから、どれだけ離れて作品を
成立させられるかを考えることが
面白いんです」

それが上手くいった例として、
'06年のドラマ『けものみち』を挙げる。

同作では、吹越が演じる
秦野という弁護士が女性を
絞殺するシーンがある。

「普通なら、暴れる女性を
押さえつけながら絞めるというのを
想像するでしょう。

僕はあえてそれを、
資源ごみを出す日に新聞紙の
束を縛るように軽く殺すという
演技をしたんです。

もちろん、監督さんとも擦り合わせて、
自分なりの表現を考えた結果です。

見ている側に問答無用に
憎たらしさを感じさせる、
それが悪役としての
理想かもしれない。

だから極端なことを言えば、
僕が画面に登場するだけで
どんどん視聴率が下がる、
全員がテレビを消すというのが、
ある意味、夢ですね。

悪役の場合に限りですよ(笑)」

子供が学校でいじめられても

吹越は大河ドラマ『おんな城主 直虎』では、
井伊家家老でありながら、
陰謀を張り巡らして井伊家を
乗っ取ろうと企む、小野政直を演じた。

「あれは難しかった。
彼は、本意が分からないし、
その本意が見えない理由さえ分からない。

脚本に僕なりの考えも加えて演技を
しましたが、いまだに、あれで
良かったのかはわからないですね。

僕が役作りにおいて提案したことは
彼の仕草です。

考え事をしている時などは
後ろ手に手を組むことを
所作の先生に相談しました。

他の登場人物がやらない仕草を
やりたいなと思ったんです。

物語には影響しませんけど、
僕にとっては大切なこと。

あとは、時代劇であまり
笑わない悪役をやる際は、
テストの時にカメラに
ピースをします。

悪役であればあるほど、
この所作によって、
現場が盛り上がるんです(笑)」

俳優本人たちが語る「ワルの醍醐味」.GIF
Photo by iStock

悪役は楽しいことばかりではない。

当然、苦悩もある。

悪役イメージの強い名バイプレイヤー、
津田寛治(51歳)が語る。

「役者も、ある程度の年になると、
『そんな酷い悪役は遠慮したい』と
ばかりに、ドブ水に飛び込むような
役はやらなくなるケースは多いですね。

理由の一つは家庭の問題です。

父親が悪役をやっていると子供が
学校でいじめられることもあるんですよ。

僕にも子供がいるのでその気持ちは
よくわかります。

ただし僕の場合はどんな役でも
オファーがあれば引き受けます。

僕が『学校でいろいろ言われているの』と
聞いても、子供は『そんなことないよ』と
しか言いませんが、
おそらく気を遣っているでしょう。

親として辛い部分であり、
本当に申し訳ないですね。

いまは『悪役だけど格好いい』と
いう役も多い。

でも、最後の最後まで正義に屈せず
悪を通す、目も当てられない腐った男。

それこそが真の悪役と思います。
僕はそこにも果敢にチャレンジしたいと
思っています。

悪役が笑う場合、
さわやかであればあるほど気持ちが悪い。

とことん掘り下げて演じることができます。

でも、演技について考えているとき、
『こんなことをやったら学校で
いじめられるかな』と
子供の顔がちらつくこともありますが、
どこまで腹をくくれるかが重要ですね」

現在、ドラマに引っ張りだこの
人気俳優・新井浩文(38歳)も、
「死んだ魚の目」と言われる
独特の眼光と存在感で、
これまで数々の不良や犯罪者役を
こなしてきた。

「いまは悪役ではない役柄も多いですが、
悪役で鍛えられた演技の深みは、
同世代の主演級の人気役者とは
比べ物になりません」
(民放テレビ局員)

底が知れない危うさ

『半沢直樹』で机をバンバン叩きながら
相手を追い詰める人事部次長を
演じた緋田康人(53歳)は、
天性の悪役俳優だろう。

「役者というのは選ばれる側ですからね。
私は悪役を演じるために雰囲気作りを
したことはありません。

自分の風体が役に合っていて、
空気感で呼んでいただいている
のだと思います。

悪役の面白みですか?私みたいに
役柄の9割が悪役だと、
『何が楽しいんだろうね』って。

どんな役であっても苦しみでしかない。

仕事ってそれほど楽しいものでは
ないでしょう。

役作りは考えすぎるより、
現場での瞬発力を大事にしたい。

私にできることはどんな状況に
なってもセリフが言えるようにすること。

あとは監督にすべて委ねて動く。

必要なのは気持ちですかね。

『半沢直樹』のときは闘争心、狂気。

それがないとやはり迫力が出ません。

相手の方に
『本当に嫌な奴だな』と
思ってもらえた感触が返ってきたとき、
『よかったな』と思いますね」

俳優本人たちが語る「ワルの醍醐味」1.GIF
Photo by iStock


一方で、緋田はこんな悩みも漏らす。

「ただ、似たようなキャラクターばかりを
演じるのはちょっとねぇ……。

『この人、また同じような役で出てるよ』
と思われたくないんですよ。

オファーはとてもありがたいのですが、
やむなく断ることもありました」

役者にとって、
イメージが固定するのは
何よりも怖いことだろう。

『昼顔』や『下町ロケット』で

ブレイクした木下ほうか(53歳)が語る。

「俳優が同じような役を続けることは
『記号』にもなるし、飽きられてしまう。

とても危険なことです。
いま私が演じると、視聴者の方に
『あとでコイツ、裏切るんだろうな』と
勘繰られてしまうでしょうね。

それが悪役であってもそう見えない
演技が求められています」

過去に自分が演じた悪役、
あるいは他の役者が演じた悪役と
かぶらないようにする。

そこが腕の見せどころでもある。

「表情とか動作、小道具……やりようは
いくらでもあります。

気をつけているのは、ただでさえ
セリフがきつすぎるときは、
やりすぎないことですかね。

私は吉本新喜劇に出演していたことが
あるんです。

そこで学んだ、笑いの間やテンポを
シリアスの演技にわざと混ぜると、
私だけの独特の演技になるんです。

どこかにチャーミングさ、
可愛らしさが出ているのが
理想だと思います」

当代一の悪役の名手、
岸部一徳(70歳)はかつて
本誌のインタビューでこう語っている。

「電車に乗っていても、
あまり気づかれませんね。
空気みたいになるのかもしれません」

「家にいても、誰かの役を演じている
ような気がすることがあるんです。
いったい、何をしている自分が
本当の自分なのか、わからなくて混乱する」

悪役を巧みに演じることのできる
俳優たちは、底が知れない。

だから、ドラマが面白くなる。

「週刊現代」2017年7月8日号より

現代ビジネス更新日:2017/07/08

https://gunosy.com/articles/RjgyJ



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